全身麻酔の歯科治療とその後:B子の歯科体験記(9)

歯科恐怖症

前の記事からの続きです。

■手術前の検査

1月下旬の手術前の検査では、担当してくださった看護師さんが
とても上手に誘導してくれた。
「検査って何するの」と、ものすごく警戒していたB子。
血液検査もしたことがなかったので、「採血って痛いよね。嫌だ。」と
とても心配していた。

■痛みに敏感

今考えれば、感覚が過敏だからなのかもしれないと思い至るが、
何しろうちの子たちは幼い頃、辛いもの、熱いお風呂などをものすごく嫌がっていた。
「そこまで?」とこちらが引くくらいに辛い熱いと悲鳴を上げる。
それでも成長に伴い落ち着いてきたけれど。

味覚について、子どもと大人では異なるという情報をテレビだか本だかで知ったB子の主張は、
「大人と子どもでは感じ方が違うんだよ」というもので、
そういわれると私もそういうものかもしれない、と思うようになっていた。

痛みについても同様で、大人が「ちょっとは我慢しなさいよ」などと言っても、
痛いものは痛い、嫌なものは嫌、絶対嫌。
そこは兄妹共通している。
扱いにくいなーと思ったこともあるが、自分に正直でいられて、
自分を守ることができるということかもね、と思ったりもする。

とにかく、私が子どもの頃に受け、受け入れてきた
「大げさねえ」とか「そのくらいいいでしょ」とか「いいからいいから」と押し通すような扱いでは
全然前に進めないので、こちらが方法を工夫するしかないのだった。

■不安の強さ

もうひとつ、状況を難しくしているのは、
「心配性」などというものを超えるレベルの、とくに未知のものに対するB子の不安の強さだ。

今回でいえば、「検査」と大人が一言で済ませるものが、
具体的には一体何をするものなのかよくわからない怖さ。
また押さえつけられて無理やり何かされるのであれば絶対に抵抗する、との警戒心。

私としては、B子がイメージを持ちやすいように、
B子の経験からなるべく感覚的に理解できるように説明しておく。
漏れがないように。
当日びっくりして「聞いてない。無理。」とならないために。

しかも、聞いたことで事前に不安が増大してしまわないようにも気をつけなければならない。
根拠を示さずに簡単に「大丈夫、大丈夫」などと無責任に言う安易な方法は通じない。
これも、「大人が大丈夫というからやってみたらひどい目にあった」という経験則からなんだと思う。
それをやってしまうと、B子の警戒心はより一層強くなるし、
また、母親である私のことすら信頼できない、となって、
ひとりで闘わなければならなくなってしまい、一層頑なになるのは間違いない。

つまり、なるべくこじらせないための手立ては、
遠回りなようでも、丁寧に説明し、
怖がりそうなところを先読みして対応まで示し、
怖がるなどの反応を受け止め、B子の心の負担を一緒に担ぐよという姿勢をできる限り見せること。

■こじらせないために

私自身が初体験のものについて、病院から説明を受けた範囲で、
B子の機嫌のよさそうなときを見計らい、
理解しやすいように噛み砕き、同時に恐怖を生じさせないように配慮しつつ
ひやひやしながら説明し、抵抗を示しそうなことに関して、
心の準備の仕方の選択肢を提示してみる。

実は、9月と10月の受診で説明を受けて、
2月の手術の前の検査が1月終わりにありますよという話を私は聞いていたのだが、
あまりに先のことだったので、B子に伝えたのだったかどうだったか、
とにかく、検査が近づいてから「この日に検査だからね」と伝えたら、
「え、聞いてない」となって、危うかった。

ここで「言ったじゃない!」などと対決するのは絶対にNG。
なるべくおおごとにならないように、そうだっけ、ごめんごめん、
そこをなんとかお願いします、などと言って乗り切る。
B子も手術にたどり着けないと困ることはわかっているので
そこまでごねなかった。

B子が検査について事前に心配だったのは採血だった。
採血と言えば針を刺すでしょ、痛いでしょ、と。
当日まで、ずっと、そのことばかり繰り返し心配していた。

私は私で、数年かけて、こういう努力を積み重ねてやっとやっとたどり着いた
この段階で、ほんのちょっとでも配慮を欠いた対応があれば
また一からやり直しとなってしまうかもしれず、
ただただその点が怖かった。

B子にしても、ここまでの経緯を経て、
後戻りはできないし、ここで治療してもらう以外に選択肢がないということは
よくよくわかっていたからこそ、彼女は彼女なりに
決死の覚悟で諸々を乗り越えようとしていた。

■検査無事終了

ラッキーなことに、検査を担当してくださったのが
包容力を感じさせる看護師さんで、B子が警戒をほどくことができた。
そこさえクリアできれば、後はスムーズ。

優しく話しかけて緊張をほぐしつつ、無駄な動きは一切なく
採血もB子が心配していたほどの痛みもなく、ささっと済んでしまった。

B子自身はふとももをつねっていたら大丈夫だった、と。

いつも、とはいかないが、
実際やってみれば心配しすぎだったねということは多い。

それでも、予想外のことが起きたときのドッキリ感に耐えられないので、
心配はやめられないのだと思う。

この検査で、少しでも押しの強い看護師さんだったら、
途中で帰ると言い出すことだってあり得た。
B子が「この人なら大丈夫そう」と思える人だったのは本当によかった。
感動すらした。

「心配しすぎだったね」と笑えた体験を増やしていければ、
そんなに心配しておかなくてもいいんだなと
そのうち思えるようになるのかもしれないと私は考えている。

肺活量を調べる検査でも、初めての機械で何をさせられるのかと
警戒しているB子が戸惑う余地などないほど、
息を吸って吐いての指示がテンポよく発せられるのが見事であった。

数日前に右側が欠けてしまった話もしたが、
痛くなったら連絡くださいとのこと。
それでも鎮痛剤の処方くらいしかできないらしい。

■いよいよ当日

左右どちらも歯が使えなくなって、ろくに噛めずに飲み込む生活を続け、
よろよろとたどり着いた2月20日。
「歯が痛いような気がする」と言って数回痛み止めを飲んだこともあったが、
常に痛いわけでもないようで、そこはラッキーだった、というべきか。

心配し続けた日々がこれでやっと終わるのか、またどこかでコケてしまうのか、
ひりひりしながらこの日を迎えた。

午前中で手術、午後に麻酔から醒めて様子を見て夕方帰れるように、
入院は8時までに。
前日に病院の近くに宿泊することも考えたが、結局自宅からがんばって行った。

■周囲の応援

全身麻酔と言えば、危険性もあるというから心配で、
E太にも話をして、明日行ってくるからねと前日伝えたら
いつもは妹に冷たいけれど、がんばってーと握手。
ぶっきらぼうではあったが、
肝心なところではちゃんと大事な家族と思っていることを感じる。

前日私は仕事で外出していたが、
学校で、いちばん深く関わってくださっている養護の先生も
「明日がんばってね」と電話をくださった。
私が帰り道に「何か買っていこうか?」と電話すると、
おばあちゃんからも同じ電話があった、と言っていた。

■手術直前

病院に着くと、すぐ手術着に着替え、麻酔の点滴開始。
点滴でまた針を刺すのがB子としてはちょっと心配だったが、
検査の時の体験のおかげで、またふとももつねっておいたから大丈夫だった、と
落ち着いている。

いつもの歯科受診のときと同様に服薬してから来ているということもあるが、
ここまでの歴史を思えば、この落ち着きぶりは感動ものだった。

これで終わらずに仕上げの治療日がこの先に設定されているとはいえ、
とにかく今日が大きな山場。

祖父が入院したときにお見舞いに行った経験があったので、
病室で着替えたり待機するのにベッド脇の引き出しに物をしまったり、
台を引っ張り出してみたり、慣れた様子なのがおもしろかった。

手術室まで歩いて入るのを見送ったけれど、
たくさんの医師や看護師さんが担当してくださるので、
なんだか圧倒されているうちに吸い込まれていった。

■手術後

手術は、当初説明を受けていたより少し長くかかり、昼過ぎに無事終わった。

病室に戻ってからの方が大変で、
目覚めてからもまだ内臓が動いていないので水は飲めない
でも気管挿入のせいで喉が痛い。
それで不機嫌。

手術中の姿勢が原因か、腕がしびれて痛いというので、さする。
数時間後にトイレに行くことを許され、
内臓が動き出す頃にヨーグルトを食べてみて、問題なければ帰れる。
大好きなヨーグルトなのに、気分がすぐれないのでほんの少ししか入らず。

とくに問題なかったので予定通り日帰り入院で済み、
19時ごろ帰宅。
長いこと心配してくれていた人たちに連絡。

帰ったらお祝いに外食行けるかななどと事前に話していたが、そんなに甘いものではないのだった。
前日から絶食しており、帰る頃も麻酔の影響は残っており、
神経とって詰め物したのがこなれてないから痛い。
食べるとしても、おかゆか柔らかいもの、とのこと。

B子は匂いにも敏感なのだが、口の中の薬の匂いが不快で、
これも不機嫌の原因。

それでも、とにかく、大きな山を越えられて、ほっとした。
私は何より、これ以上虫歯がひどくなる心配をしなくていいことがうれしい。

■その後

術後、数日は、「え、これ、噛んで大丈夫なの?痛いんだけど」と不信感丸出しのB子。
詰め物が取れてしまうんじゃないかとの不安も数日口にしていたが、
そのうち落ち着いた。

しばらく経ったら、これまで噛めなかったものが噛めるのがうれしい、と表情が明るくなった。
「今まで飲み込むしかできなかったから、味わえなかったんだよね~」と、
食べ物の歯ごたえとおいしさを満喫。

気持ちがふさぐ大きな要因を片付けられたので、
学校へ行くことや友だち関係への向き合い方も変わってくるだろうと予想していたのだが、
なんとまあ、新型コロナウィルスの影響で学校が休校となり、調子が狂った。

仕上げの治療の予定も夏に延期。
年度内に片付けて、新年度から気持ちを切り替えて・・・とイメージしていたが、
なかなかスムーズにはいかない。

とはいえ、「歯の治療もできない」という自信のなさや自分を責める気持ち、
「いつ痛くなるだろうか」という不安など、
心の底にずっと重く停滞していたマイナスの感情が軽くなったのは本当に大きい。

昨年のように気圧の変化で耳が痛くなることも今のところはない。
B子が「耳が痛い」と言っていたのが、歯の痛みだったわけではないのかもしれないが、
神経は近いところを通っているようだし、影響があったということなのかも、と素人ながらに考える。

もともとアレルギー体質だが、歯の炎症に刺激されて全身が敏感になっていたというのもあるのかなと思う。
腕や脚にひどいかゆみがあって我慢できずにかきむしっていたが、それもおさまってきた。

成長ともあいまってのことと思うが、感情の起伏もだいぶ緩やかになり、
自分でコントロールできることも増え、切り替えが上手になった。

学校の先生や支援教室の先生と話すときにずっと
「2月の手術が終われば変わると思います」と言い続けてきたが、
その見通しは外れていなかった。

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